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「DayArt」27号特集「追悼 林聖子」

風紋は新宿5丁目にあった。当時の伊勢丹クイーンズや花園饅頭に近い。医大通りを入ってすぐだ。新宿駅から歩くと徒歩10分くらいで、新宿三丁目駅の方が早い。

当時はグーグルマップなんてないから、靖国通りの交番で道を尋ね、「ああ、花園神社の方だから、ここまっすぐ」と教えられた。その日は暑かった。迷いながら、汗かいて風紋を見つけた。シャッターは閉まっている。あ、やっぱり潰れてる。

ちょうど向かいの焼肉屋のおじさんが打ち水をしていた。

「すみません。ここはまだやってますか」

黒地に白抜きの風紋の看板を指差した。

「ああ、6時頃にね、おばあさんがやってくるよ」

おお、潰れてない! おじさんにお礼を言って、一度靖国通りまで戻る。交差点に電話ボックスがあった。一応、ハローページも見てみよう。「林聖子」を探したら、あった!

僕は、聖子さんは三鷹に住んでいるものだと思い込んでいた。太宰の晩年の街、「メリイクリスマス」の舞台でもあるからだ。冷静になれば、新宿にお店があるのだから当たり前。当時はそれだけ興奮していた。

震える手で電話をかける。何回かコールされ、「はい。林です」とハスキーながらも通る女性の声が聞こえてきた。もっと嗄れた声だと決めつけていた。意外と若い人なのか。でも太宰と親交があったんだぞ! 狼狽えながら自己紹介した。

「卒論で太宰を取り上げたいのです。お話しを伺ってもよろしいでしょうか」

「ええ、結構ですよ。そしたら7時頃、お店にいらしてくれますか」

夜まで、まだまだ時間がある。ドトールに入って時間を潰そうとする。すぐに気づく。何も質問を考えていない。時間潰しどころではない。何を聞こうか捻り出し、定刻通り風紋へ。

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