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「DayArt」27号特集「追悼 林聖子」

聖子さんは物事に動じない人だった。ほとんど慌てた様子を見たことがない。誰かが亡くなったときも静かに受け入れ、誰かが落ち込んでいるときも静かに見守る。そういう人だった。

表紙の写真と同様、『風紋五十年』のインタビュー時に撮影した。/表紙の方は、実はオフショット。美味しいものを食べたあと、物思いに耽っている聖子さんを隣に座っていた写真家・石本卓史さんが逃さずシャッターを切った。聖子さんの背景には様々な思いが潜んでいる。それを窺わせる一枚。没後、聖子さんのご自宅、遺骨の背後にはこの写真が額に入って飾られていた。/上の写真は聖子さんが照れている様子が窺える。聖子さんは写真が苦手だった

写真:石本卓史

僕にとって聖子さんは祖母と変わらない年齢だった。だが、一度も「お祖母ちゃん」と感じたことはない。優しくありながらも、どこか緊張感がある。僕は、畏れのようなものを感じて接していた。おそらく聖子さんの人生経験、歩んできた道が自然と聖子さんをそのような人格に育てあげたのかもしれない。聖子さんは愚痴ひとつ言わず、人生を楽しんでいたように思う。からからと笑い、よく食べる。でも品がいい。本当に魅力的な女性だった。

そろそろ筆を置かないと。

聖子さん、お礼の言いようがありません。聖子さんの訃報を聞いてから、僕は泣けなかった。実感がないというのもあるけれど、まだ振り返りたくなかった。

今、こうして追悼文を書いています。聖子さんとの思い出をポツポツ噛み締め、ようやく涙が出ました。本当に、本当にありがとうございました。貴重な体験を数えきれないくらいさせてもらいました。

お父さん、お母さんと会えましたか。太宰さんと再会していますか。僕が逝くとき、下戸だけど太宰さんにかぶれた人がいて、よく風紋に来てたんです、と紹介してください。僕は決してでしゃばりません。黙って、聖子さんと太宰さんのお話を聞いています。

聖子さん、ありがとうございました。

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