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“ヒッピーの聖地”ワシントンスクエア公園付近で開かれるアートフェア

執筆・写真:笹野大輔

ニューヨーク・アートの今と未来(第19回)

グリニッジビレッジにあるワシントンスクエア公園は、アメリカ東部ではヒッピーの聖地だった。いまでもその色合いは濃く、公園には大道芸人や野外バンド、大麻(合法)を売るブースが並ぶ。なかには古いタイプライターを持ち込んでイスに座り、客が来れば即興の詩をタイプして売る者までいた。スマホ全盛の時代にカウンターカルチャーは生きている。

ヒッピーたちが愛するカウンターカルチャーとは、直訳すると対抗文化となるが、意味としては主流社会とは逆行する行為。ベトナム戦争当時はこの公園で反戦フォークソングの集会が行われた。最近では2007年、オバマ元大統領が無名だった頃、大統領選の予備選に出た際に演説の場所に選んだのもこの公園だった。周辺にはニューヨーク大学もあり、若者たちで賑わっている。

年に2回、このワシントンスクエア公園へと続く歩道でアートフェアが開催される。新型コロナにより一時期閉鎖されることがあったが、昨年からまた始まった。マスクをする人もほとんどおらず、ようやくコロナ前のニューヨークを実感できる。マスク着用の有無は、もはや「自分がどうありたいか」という位置づけであり、その集合体がニューヨークの「あるべき社会」となっているに違いない。

元々のアートフェアのきっかけは、大恐慌時代の1931年、当時の売れない画家ジャクソン・ポロック(3枚目の写真はMoMAのジャクソン・ポロックの絵)が、自宅兼アトリエの家賃を支払えなくなったことから、ワシントンスクエア公園で自分の絵を売り始めたことにある。彼に続く画家が増え、公園でアートフェアを開催。アリス・ニール(メトロポリタン美術館で特別展など)など数多くのアーティストがここから生まれた。

いまでは旧知の日本人がアクセサリーを売っていたり、スロバキア人の移民が絵を売っていたりして、アートフェアの歴史がさらに多様化している。ニューヨークの「あるべき社会」は、変動しつつもどこかに芯のようなものがありブレない。街の風物詩のようなアートフェアは、これからも開催され続けるのだろう。

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