「DayArt」28号特集「三毛猫ノワ脱走の6日間」ロングバージョン
「もう二度とノワちゃんに会えない」妻は膝をついて涙をポロポロ流した。
2022年1月27日午前9時過ぎ、三毛猫ノワは脱走した。本特集は編集長の実体験をもとにしたルポルタージュである。なお、登場する名前は断りがない限り仮名とする。
ノワが我が家にやってきた!
2019年4月、待望の猫がやってきた。保護主の八坂さんが、当時の我が家に届けてくれた。三毛猫のメス、生後半年くらい。野良猫だったのを八坂さんが保護し、里親を探していた。当時、僕と妻は猫を飼うため引っ越しを検討し、転居先とともに保護猫を探していたところ、八坂さんにたどり着いた。
「とても臆病な子です。将来一度も抱っこできないかもしれません」
対面したときも、ケージのハンモックにうずくまり、一度も僕らを見ようとしない。それでも、僕らはこの三毛猫を飼うことを決めた。
「猫はもともと懐かない生き物だと思っています。この子でお願いします」
こうして我が家に猫がやってきた。名をノワと名付けた。妻がクルミが好きだからだ。
ノワは想像以上に臆病だった。夜鳴きはもちろん、シャーシャーいうのは当たり前で、エサをあげたりトイレを片付けるのでも噛みつこうとする。おもちゃで遊ぶ束の間だけ、じゃれている。けれど僕らの顔を見ると、口を引き裂きシャーシャー言う。
爪切りのため動物病院の往診に来てもらったとき、ノワは怯えて脱糞し先生の指をきつく噛んだ。ポーカーフェイスだった先生が「痛っ」と声をあげた。指から血が滴る。以後、先生は診てくれなくなってしまった。
慣れてほしいことはほしい。だが、ノワを飼う時点で、触れなくてもいいかな、という覚悟はあった。とにかくノワが健康で、過ごしやすい環境だと感じてくれればいい、と。
それでもノワは、徐々にシャーシャー言う回数を減らしていった。ケージから出すこともあったが戻すのに大変なので、基本はケージ暮らしとなった。「室内野良」になる可能性もあるからだ。
ノワがやってきて半年が過ぎていた。2019年11月のことだった。いつもどおり僕らは一つの部屋におり、それぞれダラダラしていた。
すると、ノワがいつもと違う鳴き方をしている。「にゃおにゃお」と猫撫で声なのだ。妻と顔を見合わせる。体の具合が悪いのかと思った。ノワがにゃおにゃお言いながら、妻に身をこすりつけた。しばらく続けたのち僕の方にも寄ってくる。何の兆候もなかった。本当にある日、突然ノワは心を開き始めた。
「DayArt」の編集長自らが取材・体験し、執筆しています。