メトロポリタン美術館の屋上で回るビッグバード
執筆・写真:笹野大輔
ニューヨーク・アートの今と未来(第7回)
メトロポリタン美術館(The Met)の屋上に、セサミストリートのキャラクターが出現した。本来は黄色いビッグバードが、青になって空中をくるくる回っている。この作品は単なるキャラクターの設置ではない。アート作品としてアレックス・ダコルテ氏が制作した。
作品は土台部分が鉄鋼で、青い羽の部分はアルミのレーザーカットで…。素材はあまり意味をなさないだろう。マンハッタンの摩天楼とセントラルパークを一望できるThe Metの屋上に、宙に浮くアート作品が展示されていることが重要だからだ。構想は新型コロナのパンデミック中に行われた。
The Metは新型コロナにより約半年間、閉鎖していた。再開されたのは昨年の8月から。ニューヨーク州のガイダンスに従い、入場はThe Met収容人数25%からの再スタートだった。そして徐々に規制が緩和されてからの2021年7月1日、ついに規制が撤廃され、The Metは完全再開を果たした。
そのThe Metの完全再開と屋上での展示期間が重なったのが、アレックス・ダコルテ氏による《太陽が続く限り》と名付けられた青いビッグバードだ。展示期間は、2021年4月16日~10月31日まで。作品名は、イタリアの小説家イタロ・カルヴィーノ氏の短編小説から得ている。
《太陽が続く限り》は、宙に浮いたビッグバードがはしごを手に持ち、自らの力で孤立や孤独を終わらせることができると示唆している。また、アートのニュースを配信するArtnet Newsに対し、美術館のアシスタントキュレーターであるシャネイ・ジャベリ氏は、作品が動くことについてこう語っている。
それが動く必要があることは非常に重要でしたが、機械化されてはいけませんでした。気流に反応して断続的に動くものでなければなりませんでした。なぜなら人生では、物事は断続的に起こるからです。それは瞬時ではありません。
いろいろな日常を破壊していった新型コロナと、それを上回る勢いで日常に戻していく力。The Metの青いビッグバードは、風見鶏のように空で回っている。
ジャーナリスト、ニューヨーク在住。その他ビジネスに携わる。NOBORDER NY支局長、現代ビジネス他