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NYに住むアーティストの自己表現の場「マーメイド・パレード」

執筆・写真:笹野大輔

ニューヨーク・アートの今と未来(第20回)

毎年6月に開催されるマーメイド・パレードは、アメリカ最大のアートパレード(主催者によると世界最大)。1983年から始まり、場所はブルックリンの海沿いの街、コニーアイランドで行われる。パレードには登録すると誰でも参加でき、衣装も自由。テーマは「マーメイド」だけあって肌の露出度は高めだ。マーメイドの格好をする人もいれば、海賊や海洋生物をモチーフにする人もいる。なかには、「シェフvs.ロブスター」に2人で変装して延々と戦っている人もいた。

主催はNPO(非営利団体)ならぬNPAO(非営利アート団体)のコニーアイランドUSA。主催者によると「公の場で自己表現を見つける」ことがパレード発足当初からの目的としている。街はお祭り騒ぎだが、雨乞いや五穀豊穣、災厄除けなどはいっさい願わない。他のパレードとは異なり、民族的、商業的、宗教的な目的がないことを特徴としている。

6月のニューヨークは「プライド月間」なので、LGBTQIA+(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニングorクィア・インターセックス・アセクシュアルほか)たちの参加者も多い。パレードはコニーアイランドの海岸線からビーチにある長いボードウォーク(板張りの遊歩道)まで続く。マーメイド・パレード創設者で、“永遠にコニーアイランド市長に選ばれない市長(市でもないので)”と自称するディック・ジグン氏は、「マーメイド・パレードはニューヨークに住むアーティストによる自己表現のためのもの。大きくしたい、カラフルにしたい、大声を出したい」と「ブルックリンマガジン」に意義を語る。

新型コロナにより2021年のマーメイド・パレードは中止だったが、今年2022年はいつも通り開催、40回目を迎えた。イベントには、露出度も高く、LGBTQIA+たちの参加者が多いイベントには必ずと言ってもいいくらい抗議デモを行うキリスト教原理主義者たちも来ていた。聖書の言葉が書かれたサインボードを掲げ、マイクとスピーカー越しに「神の言葉」を語る彼らの前では、レズビアンのカップルが見せつけるように熱いキスを長く続けている。いつもの光景だ。ニューヨークは新型コロナ以前に戻った。

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