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《ガーゴイル》カクテル「ガーゴイル」(中村充宏)

ガーゴイルとは、元々「怪物の形をした雨どい」。壁やステンドグラスを雨水から守るための排水口として取り付けられました。ルーツは古代ギリシャ時代まで遡り、ヨーロッパの大聖堂や教会の建築には多くデザインされ、怪物だけでなく人間やライオンなど様々な形があります。時代と共にその恐ろしい怪物の姿は、悪霊の侵入を防ぐ役割を持ち日本の鬼瓦のように、「魔除け」の意味が込められました。

ザ・ペニンシュラ東京のガーゴイルは、1952年、日活国際会館竣工時から設置されていたもので、高さ1・5メートル、顔は鳥、体は人、背中に翼を持ち、何か叫んでいるような口の開きと両手の形が印象的。制作者は当時、日展評議員を務めた彫刻家の故黒田嘉治氏。その後、建物は日比谷パークビルに変わり、ガーゴイルは新築されたザ・ペニンシュラ東京の北東の角に再び設置されました。

写真提供:ザ・ペニンシュラ東京

カクテルの制作は大まかにですが、味わいや見た目などのイメージから始めていきます。まずは、あの怪物のような見た目や悪霊から建物を守るエピソードからアルコール度数は高めでもいいかなぁ。カクテルは甘味と酸味、甘味と苦味で味わいのバランスを作るが、酸味の効いた爽やかな味より、今回は噛み締めるような苦味が強めのイメージ。後は全体的に強いニュアンスがあるので、氷の入ったロックグラスを使用したい。このようにエピソードからヒントを得て、ぼんやりと想像する。

そしてキーワードになっているのが魔除け。ここは私に使いたい材料があった。それはハブ酒。沖縄エリアでは、ハブは魔除けの象徴、皮や骨を身に付けると魔除けになるという言い伝えがある。沖縄を訪れ、ハブ酒の蒸留所も見学していたので、この上ない材料。ちなみに、ハブ酒は甘みのあるリキュールの分類に入り、ハブだけではなく、沖縄原産の13種類のハーブやスパイスも使用されている。

なるべく日本の材料でまとめたいという私の意向もあり、その中で選んだベースとなるお酒は日本産のラム。ラムと言えばキューバなどカリブ海を思い描くが、サトウキビを原料として日本でも沖縄を中心に生産されている。高知県の菊水酒造で作られているセブンシーズゴールドラムを使用、サトウキビと樽由来の柔らかい甘味、すっきりした後味が特徴。苦味のあるお酒が後味に加わる事を考えて、このラムを選んだ。

そして苦味の部分には二種類のお酒を選択。一つ目は1824年にベネズエラで作られた薬酒、アンゴスチュラビターズ。これはラムをベースにリンドウなど数種類のハーブやスパイスが配合された複雑な苦味。

もう一つは、自家製の京番茶ビターズ。京番茶とは京都で古くから親しまれているお茶。茶葉を乾燥させ直火焙煎することで、独特の燻した香ばしい香りと味わいが生み出される。こちらは京番茶の茶葉をウォッカに漬け込むことで、煙のようなスモーキーな味わいを引き出した。

味の展開としては、ハブ酒の唯一無二の味わいから始まり、ラムの甘味が口いっぱいに広がり、その後アンゴスチュラビターズの複層的な苦味が舌の上に順番に登場し、最後は鼻に抜ける京番茶のマイルドなスモーキー感。少し大人の味わいと言いましょうか、背伸びしたい方、酸いも甘いも経験した方に向いているかもしれません。

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