WEB版コラム

アート、イベント、本、アイテムなどコラム満載!

  1. HOME
  2. ブログ
  3. 行った!観た!聞いた!
  4. 林家彦三×河崎純「一日遅れのメリイクリスマス、『風紋』回顧」ルポ

林家彦三×河崎純「一日遅れのメリイクリスマス、『風紋』回顧」ルポ

2020年暮れ、12月26日(土)に、落語家の林家彦三さんとコントラバス奏者の河崎純さんによるイベント「一日遅れのメリイクリスマス、『風紋』回顧」が東京・池袋にある自由学園明日館で開催された。

今回、知人の紹介により、このようなイベントが行われると知り、彦三さんと連絡を取り合って、出席させていただいた。

彦三さんは若い落語家で、元は小説家志望だったという。弊社から刊行している『風紋五十年』も読んでくださり、「風紋に行ってみたかった」そうだ(風紋は新宿にあった文壇バー。惜しまれつつも2018年に閉店)。

イベントタイトルにあるように、一日遅れのメリイクリスマスというわけだが、それは、太宰の短編小説「メリイクリスマス」のことも指している。

「メリイクリスマス」は昭和22年1月に「中央公論」にて発表された。戦後、主人公(太宰を彷彿とさせる)がシヅエ子という少女と再会する物語である。実は、このシヅエ子のモデルとなったのが、上記の「風紋」のママだった林聖子さんだ。聖子さんのお母さん、秋田富子さんが太宰と仲がよく、その縁で聖子さんは太宰に出版社を斡旋してもらったりと世話になった。

この作品を落語として構成し、なおかつ河崎純さんのコントラバスの演奏が加わる。彦三さんがアレンジした「メリイクリスマス」は、説明的になりすぎないよう所々、太宰の戦後の生活や仕事の背景を補足されていた。実際、原作を読んでもらうとわかるのだが、やや地の文が長い箇所がある。その箇所も冗長になりすぎないようバランスが取られていた。

この小説に、どうコントラバスを…と思っていたのだが、結果的には作品の雰囲気に合っていた。タイトルにあるように、「メリイクリスマス 」という言葉が、この小説の肝であり、実際、少し西洋風な雰囲気がないとはいえない。その雰囲気が、コントラバスの音色に合っているように感じられたのだ。

また、途中、主人公とシヅエ子が河岸を歩くシーンがあるのだが(原作にはない)、その様子を視覚的に表すために、河崎さんはあえて菜箸のようなものでコントラバスを弾いていた。しかも、そのとき、コントラバスは琴のように寝かされていたのだ!

お二人によれば、準備期間が足りず、探り探りということのようだが、今回のイベントは観ている人も楽しめたことだろう。個人的には、日本文学もいいが、ゴーゴリの「外套」やモーパッサンの「脂肪の塊」などは、落語にしてもおもしろいだろうし、コントラバスにも合うような気がした。

最後に、イベント当日に配られた彦三さんのレジュメから、引用させていただこう。

先日、「風紋」の跡地に行ってきた。大きなビルの、地階であった。今ではそこは定食も出している、ごくふつうの居酒屋になっていた。(中略)わたしは自分の知っている限りの風景を重ね合せて、あの辺りがカウンターで、きっとあの辺りに本棚があったはずだな、と精一杯の想像をしてみた。

閉店してから「風紋」という言葉を耳にする機会が、ほとんどなかった。久しぶりに耳にした「風紋」がまさか、20代の青年からとは思いもしなかった。年の瀬に、本当に温かいものを観させてもらい、聞かせてもらった。

林家彦三さんと河崎純さん

関連記事