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ダイアン・アーバス像から見る、本当のニューヨーク・スタイル

執筆・写真:笹野大輔

ニューヨーク・アートの今と未来(第17回)

ニューヨークで2019年あたりから、街にある銅像の性別問題が静かに盛り上がってきている。Women.nycによると、2020年までにニューヨークに150体ある歴史的人物の銅像のうち女性は5体しかなかったのだ。そこで女性銅像の諮問委員会が意見とデザインを公募。ニューヨークに貢献した女性たち約2000のノミネートから6名が選ばれ、今後マンハッタンなど5つの行政区に設置されることが決まった。

そんな最中、2021年10月セントラルパークの入口に《ダイアン・アーバス》の銅像が設置された。期間は2022年8月14日まで。銅像のダイアン・アーバス自身は、ウーマンリブ(1960年代後半の女性解放運動)以前から、活躍する女性アーティストとして知られている。

日本での流行は土砂崩れのように局地的に起こるが、ニューヨークでは地層が動くようにゆっくりと全体に広がっていく。《ダイアン・アーバス》は諮問委員会で選ばれた女性像ではなく、ニューヨーク市によるパブリックアート基金によって建てられた。つまり《ダイアン・アーバス》は、ニューヨークの流れのなかにあるといって良い。

銅像の作者はイギリス人アーティストのジリアン・ウェアリング。彼女はニューヨークで起こっている流れを感じ取り、作品を完成させたのだろう。ニューヨークでの女性の権利向上は、フェミニスト団体だけではなく、こうした異業種からの積み重ねが世論を作っていく。

設置方法もユニークだ。ひとことで言うと邪魔。いわゆる「人様の迷惑になる」ようになっている。通常であれば、銅像は台座があり道の脇や目線より高い位置にあるものだ。ところが《ダイアン・アーバス》は、台座もなく白い靴を履き、公園の入口ど真ん中で等身大になって置かれている。手に持つ2眼レフも通行の障害になっているだろう。

銅像は目的を持って見に行くか素通りされることがほとんどだが、《ダイアン・アーバス》は、無関心な層にも訴えかけ、道さえも阻む。長年ニューヨークに住んでいてわからないことの一つに、日本の雑誌などで語られる「ニューヨーク・スタイル」という言葉がある。だが、人に迷惑をかけあって先に進めようとするこの様こそがニューヨーク・スタイルなのかもしれない。

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