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主体性を持ち、社会と繋がるホイットニー美術館

執筆・写真:笹野大輔

ニューヨーク・アートの今と未来(第9回)

日本ではホイットニー美術館として知られているが、正式名称はWhitney Museum of American Art(ホイットニーミュージアム・オブ・アメリカンアート)。つまり、基本的にはアメリカ人のアートを集めた美術館。代表的な収蔵作品も、アンディ・ウォーホル、バスキア、イサム・ノグチといったアメリカ人によるものがほとんどだ。

美術館としての成り立ちは、1920年代頃、故ホイットニー夫人がアメリカ人アーティストの作品500点以上をメトロポリタン美術館に寄贈しようとしたところ、断られたことが背景にある。当時、アメリカ人によるアートは、アカデミックな世界では認められていなかったのだ。そこから故ホイットニー夫人は、アメリカ人アーティストのために独自の美術館を建て、移転を経ていまに至る。

「しょうがない」「仕方がない」とあきらめず、自分たちの力で一から作り上げるエピソードは、いかにもアメリカらしいだろう。その後はまるで、いつのまにか高い評価を受けているカリフォルニアのナパバレー産ワインのように、アメリカ人アーティストが当然のごとく育っている。

そのホイットニー美術館は「私たちは黒人コミュニティを支持します」と新型コロナのパンデミックのさなかに声明を出した。アメリカで行われている黒人差別や、警官によるジョージ・フロイド氏の殺害などの実際に起こった事件を挙げ、アメリカにある人種差別と不平等を認め、自らも間違いを犯していたと悔い(特に問題があったわけではないが意識下でという意味)、今後は展示やプログラムを再検討する、という趣旨だった。

当たり前のことを言っているようだが、日本にこれだけ主体性を持ち、実社会と繋がっている美術館はどれくらいあるだろうか。日本人アーティストでさえも「お上」に認められようとしている現状がある(表現の不自由展など)。

現在、ホイットニー美術館で特別展示されているアーティストは5人。70年代から黒人を撮り続けている写真家ダウード・ベイ氏も加わっている。ホイットニー美術館は、有名美術館となってからも地を這うように謙虚に進んで行く。

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