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ニューヨークの風景として守られるバンクシー作品

執筆・写真:笹野大輔

ニューヨーク・アートの今と未来(第10回)

グラフティ(スプレーなどによって建物の壁面に描かれたアート)が多いニューヨークにおいては、バンクシーの扱いが難しい。ほとんどが建物所有者に無許可で描かれているからだ。迷惑な落書きとされる場合のほうが多いだろう。グラフティ・アーティストが有名だからといっても不公平は許されない。一度特例を認めると、歯止めが利かず、また、特例措置はどこかで誰かの泣き寝入りが生ずることにもなる。

2013年にバンクシーは、ニューヨークで活動を強めた。1年で30箇所以上のグラフティを市内に残したのだ。しかし、これに黙っていなかったのは無名のグラフティ・アーティストたちだ。彼らはバンクシーの作品を消すように自らのグラフティを塗り重ねていった。

あるビルの所有者は上書き行為防止に警備員まで雇い、バンクシーのグラフティを守った。その他のビル所有者や市は塗りつぶし、もしくは壁やドアごと撤去した。取り外したバンクシーの作品を売りに出た人もいたが、売れることはなかった。やはり、その場所にあってこそのバンクシーなのだろう。

マンハッタンのアッパーウエストに、バンクシーの作品がニューヨークらしく残っている場所がある。《ハンマーボーイ》と名付けられた作品は、その名の通り少年がハンマーを持ち、いまにも本物の消火栓から水があふれ出そうになっている。異常を知らせる赤い警報アラームまでが作品と考えていい。

その警報アラームに沿うように透明のアクリル板が貼られている。バンクシー作品の保護のためだ。たまたまビルの所有者が生鮮食品を扱うスーパーマーケット「ゼイバーズ」のオーナーだったので、スーパーにあるアクリル板を設置したのだった。しかし、この処置だけでは事態は収まらなかった。

次の日に、名もなきグラフティ・アーティストから「ストリートに決めさせろ」という文字が“最初の”アクリル板の上に書かれた。アーティストを公平に扱え、という意味だろう。現在のアクリル板には「ゼイバーズを助けて(買い物して)このバンクシー作品を守ろう」と印字されている。自身のスーパーの宣伝風にしたのだ。この茶目っ気がバンクシー作品の保護に役立ったに違いない。いまのところ《リトルボーイ》は、ニューヨークの風景の一部となって残っている。

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