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NYハーレムに現れた「自由の女神の涅槃像」

執筆・写真:笹野大輔

ニューヨーク・アートの今と未来(第11回)

ハーレムのはずれの公園に《リクライニング・リバティ》というアート作品が設置された。リバティとはスタチュー・オブ・リバティ(自由の女神)のことで、リクライニングは直訳すると「横たわる」となる。だが、見た目は涅槃仏。涅槃仏は英語で「リクライニング・ブッダ」なので、作品は「自由の女神の涅槃像」と捉えるほうが正しいだろう。

日本でも主な宗派を占める大乗仏教は解釈が多く、整合性もあまりとれていないのでニューヨークでは広まっていない。ただし、ブッダそのものの思想という点では静かに理解されている。ブッダがなにを話したか、なにを行ったか、総合すると“彼は”どんな思想の持ち主なのか、という点においてだ。

涅槃という単語については、パーリ語の「ニッバーナ」(nibbāna)の音写にすぎないので漢字に意味はない。ニューヨークを紐育と書く当て字のようなものだ。原語のニッバーナ(涅槃)は「消えて滅びた」という意味であり、そこからサンスクリット語の「ブドゥ」(悟りを開いた人の意味)の音写が仏陀(ブッダ)なので、涅槃仏は死期前後のブッダということ。

なぜこういう風に書くのかといえば、アメリカ人が仏教のことを知ろうとするとこうなるからだ。なにかわからない曖昧なままの理解で拝む対象になることはない。

カリフォルニア生まれのザック・ランドバーグ氏による《リクライニング・リバティ》は、自由の女神とブッダという組み合わせによって新たな作品となった。マッシュアップと呼んでいいだろう。

ザック・ランドバーグ氏は作品について「アメリカは(自由の女神のように)永遠に直立して背の高い存在であるのか、最終的には衰退して崩壊するのか、それとも完全に超越して別の段階があるのか」と問いかける。ブッダに関しては「ただの死ではなく、悟りへの道の1つの実例」とした。偶像への熟考を求めている。

ただ、《リクライニング・リバティ》は、その親しみやすさから市民は触ったり、自撮りをしたり、石の上に腰掛けて眺めたりと様々だ。ふとカメラを向けると女性は涅槃仏のポーズをとった。展示は2022年4月25日まで。

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