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大統領選後、ニューヨーカーは《見上げる》

執筆・写真:笹野大輔

ニューヨーク・アートの今と未来(第1回)

ニューヨーク5番街に面するロックフェラーセンタービル。他のビルとは違い、ストリートとストリートの間に一直線の私道があり、その先のアイススケートリンクを越えたところにロックフェラーセンタービルが直角にそびえ立っている。場所はニューヨーク・マンハッタンの中心部といっていいだろう。

新型コロナ、BLM(黒人の命も大事だ)、大統領選で揺れたニューヨークではあるが、アートの灯は消えない。2021年1月20日、アメリカ大統領就任式の日に新しいアートがロックフェラーセンター前に設置された。

作品名はトム・フリードマンによる彫刻《Looking Up(見上げる)》。高さ3メートルを超えるジャコメッティのような彫刻は、アルミホイルを丸めたような造形だがステンレスで作られている。

アートと政治。互いに対峙することはないが、大統領就任式当日にフリードマンの彫刻《見上げる》が、ニューヨークのロックフェラーセンターに設置されたことは無関係ではないだろう。政治はどんな課題でも突き詰めると答えは2つ、もしくは3つに収斂される。ただし、アートはその他の答えを出す。だから、アートはおもしろい。

大統領選でアメリカ人は憎悪や不安をかき立てられ、国は分断された。また、新型コロナ禍において不要不急の外出を控えることにより、多くの人は人との繋がりをツイッターやフェイスブックなどのSNSにより強く求めた。SNSは有力な情報もあれば、フェイクニュースやデマも溢れている。そのとき人々はどこを見ていたのだろうか。

ロックフェラーセンター前で人々は、野外彫刻の《見上げる》を見上げ、その後ビルを見上げる。現実世界を感じる瞬間だ。彫刻制作者のフリードマンは「作品の《見上げる》は、自分だけのことを考えず、自分を超え、不思議や発見、そして畏怖すること。また積極性も表現しています」とタイムアウト誌で語っている。

スマホ片手に下を向いていると、アートを感じることはできない。いまこそ「見上げる」ことが必要な時代だろう。また、しわくちゃのアルミホイルのような質感を出したフリードマンの彫刻は、SNSでは盛んに会話を交わすが、実社会ではつるりとした無機質な現代社会への警笛のようにごわついている。

ニューヨークのロックフェラーセンター前に設置されたトム・フリードマンの野外彫刻《見上げる》は2021年3月19日までの限定公開。ロックフェラーセンターでは、こうした野外アートの展示が度々行われている。

なお、トム・フリードマンはアメリカ・ミズーリ州セントルイス出身の現代アーティスト。フリードマンの作品は、アメリカ・ニューヨークのMoMA(ニューヨーク近代美術館)ほか、テキサス州、ミズーリ州にもある。世界ではイタリアのミラノ、イギリスのロンドン、スウェーデンのストックホルム、イスラエルのテルアビブなどの美術館で展示されている。

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