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NYチャイナタウンが虹色に染まる《田んぼのテラス》

執筆・写真:笹野大輔

ニューヨーク・アートの今と未来(第13回)

マンハッタンのチャイナタウンにあるドイヤーズ・ストリートが虹色になった。作品名は《田んぼのテラス》。チャイナタウンに描くにあたり、制作者でありチリ人のダシッチ・フェルナンド氏は、中国の稲作風景からインスピレーションを得たという。こうしたアスファルト・アートは、ニューヨーク市によって2013年から行われている。

ドイヤーズ・ストリートは、マンハッタンでは珍しく「脇道」のような道路で、真ん中辺りでL字型に曲がっている。イタリア系ギャングが全盛期のときは、その角を境に縄張りが分かれていたこともあった。だが、いまでは飲食店が建ち並ぶ平和なストリート。脇道から幹線道路に出ると、その先には中国系退役軍人をたたえるキムラウ戦争記念碑が建っている。

新型コロナの影響により、道路を飲食店のテラスのように使用可能になったニューヨークだが、中国系の飲食店の人たちにとっては慣れたものだ。ニューヨークに移民した中国系の人たちにとっても、屋台が建ち並ぶ本国を思い出すことにもなったことだろう。

《田んぼのテラス》は、6月のLGBTプライド(同性愛など性的指向や性自認に誇りを持つべきという考え)月間に合わせて塗られた。ソリッドカラー44色を使用。中国語だらけの街に、LGBTを表す虹色のアスファルト・アートが差し込まれる。元のイタリア人街からチャイナタウン化した場所に、LGBTの象徴カラーが上塗りされたような形だ。

ニューヨークでは行政の施策が進み、いまや差別主義者は住み心地が悪い街にさえなっている。しかし、LGBTへのあからさまな差別はなくなったとはいえ、こうしてアートとしてのLGBTが“日常”になっているからこそ、平衡を保っている面もある。まだまだ続けなければならないのだろう。

《田んぼのテラス》は、LGBTたちが「私たちがいつか通ってきた道」といわんばかりにチャイナタウンのアスファルトを虹色に染めた。LGBTからヘイトクライムが続くアジア系へのバトンのようにも見えてくる。脇道の曲がり角に建つアパートの一室からは、住民が掛けたであろうLGBTの象徴である虹色の旗がはためいていた。

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