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NY市庁舎前に登場した、黒人アーティストによる彫刻《壊れた鎖の歌》

執筆・写真:笹野大輔

ニューヨーク・アートの今と未来(第14回)

ニューヨーク市庁舎前の公園に彫刻アートが設置された(2021年11月28日終了)。大きな鎖の作品名は《壊れた鎖の歌》。公園内のいくつかの作品を含めたタイトル名は《輝かしい日々》となっている。制作者である彫刻家で黒人のマービン・エドワーズ氏は、50年以上にわたり人種、労働、そしてアメリカであった奴隷制度(アフリカ人のディアスポラ)をテーマに取り組んでいるアーティストだ。

あまり知られていないが、1999年のニューヨーク市庁舎改修の際に、地中から人骨が出た。17~18世紀のアフリカ人奴隷たちの墓地だった可能性が高く、市はこの一帯をアフリカ人墓地跡地としても認定している。そしてBLM(黒人の命も大事だ運動)の際、この市庁舎前は抗議の中心地だった(写真2枚目:ニューヨーク市庁舎前でのBLMの様子)。

《壊れた鎖の歌》の鎖は、もちろん比喩的に用いられている。かつてアフリカ大陸からの奴隷に付けられていた鎖を。それでも《壊れた鎖の歌》に悲壮感はない。市民はいつも通り公園を利用している。アート界のベテランの作品は、重厚感を持って静かに鈍く光っているだけだ。作品として強引さはない。

制作者のマービン・エドワーズ氏は作品設置にあたり、パブリックアートファンドのインタビューで「鎖はフレキシブルな存在だよ。人々は奴隷を連想するが、鎖は奴隷のためだけではないしね。鎖はロープの一種にすぎない。もちろん比喩として連鎖や結合を意味するが『世代と世代、繋いで繋いで』と捉えることもできるよ」と答えている。

また、黒人差別は100年くらい続いているとしながらも「みんなが取り組んでいるからね。私たち人間は生活や環境でも問題を作りだした。でも解決していっている。私は楽観主義だから(黒人差別も)解決できると思っているよ。がんばればね」と語った。

2021年7月、ニューヨーク市長を決める民主党の予備選で、元警察官で黒人のエリック・アダムス氏が選ばれた。11月初旬に、晴れてニューヨークに黒人市長が就任した。その頃にはまだ市庁舎の眼下には《壊れた鎖の歌》が残っていた。民意も鎖のように繋がった。輝かしい日々には光と影がある。

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