ニューヨーク植物園で映える草間彌生のドット柄作品
執筆・写真:笹野大輔
ニューヨーク・アートの今と未来(第6回)
意外に思われるかもしれないが、ニューヨークで一番有名な日本人は草間彌生。少なくとも筆者はそう考えている。日本ではあまり伝わっていないが、彼女の人気ぶりは相当なものだ。ニューヨークで「Yayoi Kusama」の個展を開くと、入場者の列は碁盤の目に分かれたストリートとアベニューをほぼ1周する。
草間自身はニューヨークに1958年~1973年まで住んでいた。2018年にはMoMA(ニューヨーク近代美術館)でのアートフェスティバルに参加もしている。今回のNYBG(ニューヨーク植物園)での草間彌生展【KUSAMA: Cosmic Nature】でも、アートのスケール感もピタリと合わせてくる。
彼女の作品は《踊るカボチャ》など、自然との親和性が高い。作品の多くは独特のフォルムとドット柄で鮮やかに表現される。日本の都市のように人やモノが溢れているなかでは、ドット柄の鮮やかさは半減されるかもしれない。だが、自然のなかにドット柄のアートが現れると、なにか別のエネルギーになって放出される。広大なNYBGでも草間アートは圧巻だった。
草間彌生はアメリカで「現代アーティスト」と紹介される場合とは別に、「パフォーマンス・アーティスト」と紹介される場合がある。理由は1966年のベネチアビエンナーレでのこと。草間は“招待されなかった”ベネチアビエンナーレのパビリオンの芝生で、《ナルシサスの庭 草間》*の看板を立て、用意した1500個のミラーボールの球体を散らかし、裸足で金の着物を着た。そして、「あなたのナルシシズムを売ります」と、草間はミラーボールの球体を1個2ドルで販売した。
(*ナルシサスはギリシャ神話の美少年で「ナルシシズム」(自己愛・自己陶酔)の語源になった言葉)
もちろんビエンナーレでアートの販売は禁止、即刻退場になったが、そもそも草間は招待されていない。だが、このパフォーマンス・アートが彼女を一躍有名にした。当時の草間は、アーティストが虚栄心に立ち向かうことを余儀なくされている現状や、アートの消費主義を批判していた。NYBGにも《ナルシサスの庭》のミラーボールの球体は水面に浮かんでいる。何事にも鮮やかさを求められる時代に変わりはない。
ジャーナリスト、ニューヨーク在住。その他ビジネスに携わる。NOBORDER NY支局長、現代ビジネス他