自然とアートの共生 ニューヨークの《リトルアイランド》
執筆・写真:笹野大輔
ニューヨーク・アートの今と未来(第8回)
2021年5月、ニューヨークに新たな島《リトルアイランド》ができた。人工島とはいえ、いわゆる「埋め立て地」ではない。水中から茎のように伸びた柱が全体を支え、その上に公園と円形劇場がある。構想段階での言葉を使うなら「自然とアートの没入型体験を生み出すパブリックスペース」が《リトルアイランド》だ。
場所はウエストエンドのピア54。つまり、マンハッタンの西の端、埠頭番号54だった場所にある。島であるマンハッタンは、19世紀から入港地として賑わい、船が停泊できる埠頭が数多くできた。ピア54はその1つ。有名なところでは、沈没したタイタニック号からの生存者を乗せた船は、このピア54に入港した。
時代は流れ、1970年代頃からマンハッタンの埠頭は役割を終えはじめ、ピア54はコンサートなどが行われるイベント会場に変わった。ところが2012年、ハリケーン・サンディがニューヨークを襲う。そのときピア54は、無残にも埠頭ごとハドソン川に流されてしまった。
翌年、ピア54は、ピア55《リトルアイランド》になって復興計画が立てられた。設計はイギリス人彫刻家トーマス・ヘザウィック氏。公園はランドスケープデザイナーのシグニー・ニールセン氏が手がけた。
《リトルアイランド》は、132本のチューリップ型のプレキャスト・コンクリートの集合体。チューリップ型の土台は平行に並べないことで、公園自体に高低差を生み、イギリス式庭園のようなランドスケープになっている。
ただし、すべてを人間が歩く“上部の”公園に合わせているわけではない。浮かせた人工島は、南北の方角をストリートからずらし、南西を高い位置になるよう設置されている。ハドソン川に注ぐ日差しをなるべく遮らないようにすることで、生態系への配慮をしているのだ。
植えられた約400種類の草木や花は、ほとんどがニューヨーク自生のものが選ばれている。ニューヨークの厳しい冬にも耐えられるだろう。訪れる人は回を重ねるごとに、自分の庭のように没入できるに違いない。
ジャーナリスト、ニューヨーク在住。その他ビジネスに携わる。NOBORDER NY支局長、現代ビジネス他