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ロックフェラープラザ前で「ニュース」の理念を謳うイサム・ノグチ作品

執筆・写真:笹野大輔

ニューヨーク・アートの今と未来(第16回)

イサム・ノグチは、石、大理石、木を主に使うイメージのアーティストだが、ニューヨークには唯一ステンレスで作られた彼の彫刻《ニュース》がある。場所はロックフェラープラザ。1938年に建てられたアールデコ様式のビルのエントランス上部に《ニュース》は設置されている。当時ビルに入居していたAP通信社にちなみ、ロックフェラーセンターによるコンペでイサム・ノグチ案が選ばれた。

AP通信社は、現在でも記事を配信する世界最大の通信社。その本社だったビルにある《ニュース》には、ニュースに必要不可欠な5人が彫られている。取材のため電話をする人、メモを取る人、原稿をタイプする人、写真を撮る人、写真を電送する人。《ニュース》の5人は、自らがブルーカラーであることを誇示するかのように躍動感があり力強い。

日本ではすっかり「ニュース」という単語が定着しているが、そもそもの誤用も多い。ニュースは英語でNewsと書くが、本来はメディアから流される「New=新しい事象」の複合体なのでsが付く。だから、大勢の人がすでに知っている事象や、意見や議論の発信はニュースではない。ただ単に日本では、「報道」よりも曖昧な意味になる「ニュース」というカタカナ英語を好んで使っている。

ロックフェラープラザの《ニュース》自体は1940年に完成した。その年は日独伊三国同盟締結の年、日本による真珠湾攻撃の前年にあたる。アメリカでも愛国心が高まっていた時期だ。日系人は暮らしにくかっただろう。それでもイサム・ノグチの作品は残り続けた。その理由は《ニュース》が、普遍的で国籍やナショナリズムを超えたアートだったからに違いない。

《ニュース》完成から80年以上経った。インターネットの普及により、ニュース記事を労せず転載するニュースサイトが氾濫するようになった。しかし、ニュースを作り出しているのは《ニュース》に彫られている人たちであることに変わりはない。重厚感あるイサム・ノグチの《ニュース》は、どれだけ海が荒れてもじっと船を停泊させる錨のように、ニュースの基本理念の錨を下ろし続けている。

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