「DayArt」27号特集「追悼 林聖子」
2022年2月23日、林聖子さんが亡くなられた。享年93。
聖子さん。出会った頃から、呼ばせていただいていた。聖子さんは2018年6月に、惜しまれつつ幕を下ろした文壇バー「風紋」のママだった。もっと言えば、太宰治の短編小説「メリイクリスマス」の登場人物「シズエ子」のモデルであり、大正・昭和に活躍し《出獄の日のO氏》(モデルは大杉栄)を描いた洋画家・林倭衛(しずえ)の長女でもある。個人を定義することはナンセンスだが、とにかく激動の生涯を送られた。
「DayArt」の読者にはすっかりお馴染みの方だろう。そう、聖子さんは死んでしまったのだ。今回は特別号として、聖子さんとの思い出を振り返る。
2001年5月、僕は大学4年生、太宰治のモデル論で卒論を書こうとしていた。たまたま1年間だけ太宰研究で著名な安藤宏先生が、うちの大学に講義にいらした。本当に幸運。早速、安藤先生に相談すると、
「新宿に風紋というバーがあって、林聖子さんという方がママをしているから行ってみるといいよ」
と、おっしゃった。
先に書いたように「メリイクリスマス」のこと。僕も取り上げるつもりでいた。
ただ、正直言って、風紋のことも知っていたけれど、とっくに潰れていると思っていた。まだあるのか。すぐに新宿駅に行って、タウンページを調べた。風紋。あった!
電話するが誰も出ない。当然だ。昼間にバーは開いていない。僕は今でも下戸で、まったく酒を飲まない。しかも当時は大学生、居酒屋はまだしもバーに行ったことなんてない。
居ても立っても居られず、住所を参考に行ってみることにした。
「DayArt」の編集長自らが取材・体験し、執筆しています。